Introduction

18世紀フランス革命。
ロベスピエール、マリー・アントワネット、そしてルイ16世・・・・・・
彼らの首を刎ねたのは、たったひとりの死刑執行人だった。
その名は、シャルル=アンリ・サンソン。
彼は死神か、聖人か?
あまりに過酷で、あまりに非情な時代を生きた男の
本当にあった数奇な運命の物語。

実在の死刑執行人が見た革命のドラマが再始動

18世紀のフランス・パリに生きた、実在の死刑執行人、シャルル=アンリ・サンソン。時には忌まわしい存在として人々に疎まれながらも、国家と法を重んじ、職務を遂行し続けた彼は、敬虔なカトリック教徒で医者でもあり、その内心には常に、死刑廃止論者としての死刑制度に対する葛藤がありました。
当時の死刑は、貴族なら斬首、庶民なら絞首と決められており、罪状によっては、陰惨な拷問を伴うものもありました。せめて誰にでも平等に苦痛を感じさせない死をもたらそうと、サンソンは、ギロチン(断頭台)の発明にも積極的に協力します。しかし、絶対王政の崩壊、急進派と穏健派の分裂、ロベスピエールによる恐怖政治、と揺れ動くフランス革命期にあって、完成し、実用化されたギロチンは、処刑の名の下に多くの人間の死を量産する道具ともなりました。サンソンはおよそ3000回もの執行を手がけたと言われています。その中には、彼が敬愛した国王ルイ16世も含まれていました。
舞台『サンソン』は、そんな彼の眼差しを通して、王族、貴族、革命家、一般庶民にいたるまで、フランス革命にかかわった多くの人間たちの理想や挫折、生きざまを、鮮やかに浮かび上がらせます。数限りない死に立ち合い続けた男の眼に映った、革命の深層、人間の尊厳とは−−。
2021年4月に初演の幕を開けるも、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、わずか数公演で東京公演の中断、大阪公演の中止を余儀なくされた話題作が、いよいよ再始動の時を迎えます。

主演・稲垣吾郎が纏う、冷静と情熱

死刑執行人という宿命を背負ったシャルル=アンリ・サンソンの葛藤を一身に背負うのは、稲垣吾郎。
白井晃との初タッグとなった舞台『No.9-不滅の旋律-』(2015年初演)でも実在したベートーヴェンを熱演し、2018年、2020年と上演を重ねてきました。大きな時代の変化を見つめる知性と冷静沈着さを保ちつつ、その内面に息づく人間性、信念、情熱をも感じさせる多面的なサンソン像は、初演時にも深い印象を残しました。

群像劇を彩る、フレッシュかつ個性豊かな俳優陣

「アンシャン・レジーム」(旧体制)の打倒を目指す革命のドラマにふさわしく、キャストにはフレッシュな若手俳優が集いました。
フランス革命のいちばんの当事者であり、サンソンの敬愛の対象でもあるルイ16世役には、蜷川幸雄演出『盲導犬』で舞台デビューを飾り、近年もウィル・タケット、鄭義信、ノゾエ征爾ら個性豊かな演出家から愛され続ける大鶴佐助が新たに挑みます。
新キャストには、2.5次元舞台から映画、テレビドラマへと活躍の幅を広げ独自の存在感を放つ崎山つばさ、劇団EXILEのメンバーで映画、ドラマと多くの話題作への起用が続く佐藤寛太、2.5次元舞台から翻訳劇までさまざまな舞台でキャリアを重ね進化を続けるD-BOYSの池岡亮介が加わり、革命期の青年たちを演じます。
初演メンバーからは、数多くの映画、ドラマでキャリアを築き、話題作への出演を続ける落合モトキ、舞台はもちろん映画やドラマでも着実に存在感を示す清水葉月が続いて出演。
さらに、ギロチンの発案者で医師、ギヨタン役には、重鎮・田山涼成、シャルルの父親とロベスピエールの二役には榎木孝明も続投、若者たちの群像劇に奥行きをもたらします。

最高のクリエイター陣がつくりあげるドラマティックな劇空間

演出の白井晃、脚本の中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽の三宅純は、英仏の百年戦争を舞台に、歴史の奔流に飲み込まれていくヒロインを描いた『ジャンヌ・ダルク』(2010年初演)、楽聖ベートーヴェンの半生を音楽と共に描く『No.9-不滅の旋律-』(2015年初演)、そして本作と、足掛け10年以上3度にわたり、実在の人物を題材とした歴史劇を創作してきました。
中島かずきは、史実に大胆な発想の飛躍を加え、歴史の転換点とそこに生きる人間たちの姿を鮮やかに捉えます。ホームである劇団☆新感線で描く歴史のダイナミズムはそのままに、より抑えた筆致で、人の心の深淵を浮かび上がらせるのが、本シリーズの特色です。
三宅純は、ジャズを出発点に古今東西の音楽の異種配合を重ね、独自のサウンドを構築する世界的な音楽家。全編書き下ろしによるオリジナル楽曲には、18世紀末のパリの混沌、喧騒と静謐が立ちこめます。そこには、長年パリを拠点として活動していた三宅だからこそ知る、同地の呼吸が息づいているとも言えるでしょう。
そして、緻密な戯曲読解と演出を通じ、濃厚かつ洗練された劇世界を立ち上げる白井晃。
音楽にも美術にも造詣の深い白井が、一流のクリエイター、個性豊かな俳優たちと立ち上げる、ドラマティックな劇空間にご期待ください。

Message

  • 稲垣吾郎

    『サンソン』再始動の話を聞いたときは素直に嬉しく思いました。白井さん、中島さん、三宅さんという素晴らしいクリエイターの方たち、そしてフレッシュなメンバーも加わるキャストの皆さんと、改めてこの作品に向かい合えることに感謝しています。
    "死刑執行人"という非情な宿命を背負ったサンソンに再び向き合い、彼のような人物がいたという事実を、舞台を通して皆様に伝え、未来に繋げていければと思っています。
    色々なお仕事をさせていただく中で、舞台は自分が自由に羽ばたけるような貴重な場所です。初演時は中止になってしまった公演も多く、ご来場が叶わなかったお客様もいらっしゃると思います。今回は多くのお客様と時間を共有できることを楽しみにしています。

  • 演出白井 晃

    2021年4月の突然の中断から2年。再び『サンソン』が動き出す。
    私は、今回の公演を再演とは捉えていない。あの日の憤りからこの作品はずっと続いている。だから、再演ではなく再始動である。2年間という時間の中で私たちは多くのことを学んだ。不安の蔓延、虚偽と真実の不確かさ、価値の変化。だからこそ、今、フランス革命の中心にいて、時代の波に翻弄されながらも、使命を全うすることで自己の存在を見出そうとした「サンソン」の姿が崇高に思えてくるのだ。

  • 脚本中島かずき

    『サンソン』が再始動する。
    2021年に唐突に中断され、その公演の大半を中止せざるを得なくなり、それでもなんとか神奈川公演で大千穐楽にだけはたどり着けた。だが、そこにいた誰もが不完全燃焼な思いを胸に「もう一度」と熱く願っていた作品だ。2年の時を経て、新しいメンバーを加えて、ようやく胸の燻りに火をつけることができる。暗く辛い時代の重い使命を抱えた男の物語だが、しかし、その炎があれば、闇の先の光にまでたどりつけると信じている。

  • 音楽三宅 純

    世襲の『死刑執行人』という宿命、動乱の時代がもたらす過酷な試練、シャルル=アンリ・サンソンをめぐる数奇な史実を知って、僕は震撼した。彼が責務を執行した現場の多くは、パリの住まいから徒歩圏にあり、街が今までとは違って見えてきた。サンソンの生きた時代、カオスとデカダンス、彼の美学とリリシズムを、白井晃さんの音楽構成案に繰り返し登場する「重低音」というキーワードと、どのように交差させるべきか、試行錯誤したのが今回のスコアだ。
    この作品の初演はコロナ禍に翻弄され、余儀なく中断されたが、僕にはそれすらも物語の背景にある動乱の時代の事象に見えてきてしまっていた。今回の再演に際しては、中断された悔しさのエネルギーが昇華され、さらに凄みのある舞台になることを期待している。